quillとは?macOS専用のオフライン会議録音・文字起こしオープンソースツール
在宅勤務やリモート会議が当たり前になった今、「会議の内容をあとで確認したい」「議事録作成を自動化したい」という需要は急増しています。しかし既存のクラウドベース文字起こしツールには、音声データが外部サーバーへ送信されるリスクがあります。そこで注目を集めているのが、quillです。macOS専用のローカル完結型会議録音・文字起こしツールで、GitHubで1,315スターを獲得しています(2026年7月時点)。
quillとは?メニューバーから1クリックで録音を開始するmacOS専用ツール
quillは、digimata氏がSwiftで開発したオープンソースのmacOS会議録音・文字起こしツールです。最大の特徴はすべての処理がMac内で完結する点で、録音データも文字起こし結果も一切クラウドに送信されません。
メニューバーに「羽」のアイコンが表示され、クリックして「Start recording」を選ぶだけで録音を開始できます。シンプルな操作性を維持しながら、マイクとシステム音声を独立したトラックとして同時録音するという実用的な設計が特徴です。同じ開発者の parrot の姉妹プロジェクトとして生まれ、「Single Swift binary、メニューバートレイ、アプリバンドルなし」というミニマルな哲学を継承しています。
動作環境・要件
| 項目 | 要件 |
|---|---|
| OS | macOS 15 (Sequoia) 以上 |
| ハードウェア | Apple Silicon 推奨(文字起こし高速化のため) |
| 依存関係 | Swift(ビルド時)、FluidAudio(Core ML推論) |
主な仕様
- 音声フォーマット: CAF(Core Audio Format)。途中でプロセスが終了しても録音済みデータは失われない
- 文字起こしエンジン: Parakeet TDT 0.6B v2(Core ML版)
- 対応言語: 現時点では英語のみ(Whisperエンジン対応は開発中)
quillの主な機能
Parakeet TDT 0.6B v2による高速オンデバイス文字起こし
quillが採用する FluidAudio/Parakeet TDT 0.6B v2 は、NVIDIA製のASRモデルをAppleのCore MLに移植したものです。Apple Silicon搭載のMacなら1時間の音声を約20秒で文字起こしできます。モデル(約600MB)は初回文字起こし時に自動ダウンロードされ、以降はオフラインで動作します。
quill doctor コマンドでモデルのキャッシュ状況を確認でき、「重要な会議の直前にダウンロードが走る」という事態を防げます。
2トラック録音とスピーカータグ付き文字起こし
録音は**マイク(me)とシステム音声(them)**の2トラックで行われます。これにより、追加のスピーカー識別モデル不要で「自分の発言」と「相手の発言」を区別したトランスクリプトが得られます。
各セッションは ~/Recordings/<日付>/ に保存され、次のファイルが生成されます:
| ファイル | 内容 |
|---|---|
mic.caf |
マイク音声 |
system.caf |
システム音声(通話相手側) |
transcript.md |
スピーカータグ付き文字起こし |
transcript.json |
構造化トランスクリプト(時刻・話者情報) |
meta.json |
録音メタデータ |
on_stop フックによる後処理の自動化
設定ファイル(~/.config/quill/config.json)に on_stop を設定すると、文字起こし完了後に任意のシェルコマンドを自動実行できます。要約スクリプトやファイリングツールへの連携が可能です。
{
"on_stop": "my-summarize-script"
}
インストール・使い方(macOS 会議録音 文字起こし オフラインで始める)
# 1. リポジトリをクローン
git clone https://github.com/digimata/quill.git
cd quill
# 2. ビルド
swift build -c release
# 3. インストール
sudo cp .build/release/quill /usr/local/bin/quill
# 4. ログイン時に自動起動(任意)
quill install --launch-at-login
録音の開始・停止
quillをターミナルで実行(またはLaunchAgent経由でバックグラウンド起動)- メニューバーの羽アイコン → Start recording
- 初回はマイクとシステム音声録音の権限を許可
- 録音中はアイコンが赤くなり、経過時間が表示される
- Stop recording をクリックして停止 → 文字起こしが自動開始
quill doctor で状態確認
quill doctor
# → 権限、録音フォルダ、モデルのキャッシュ状況を一括チェック
Otter.aiやNottaとの違い・なぜ今quillなのか
クラウドベースの文字起こしサービスとの最大の違いはデータの主権にあります。Otter.aiやNottaは高精度で多機能ですが、音声データをクラウドサーバーで処理するため、NDA(秘密保持契約)が関わる会議や、医療・法務・金融などの機密性が高い領域では利用を制限される場合があります。
quillはすべての処理がローカルで完結するため、企業のセキュリティポリシーに反することなく使用できます。Whisperなど他のローカル文字起こしツールと比べても、macOSのネイティブAPIを最大限活用することで「インストールが簡単」「メニューバーから直感的に操作できる」点が差別化ポイントです。Apple SiliconによるCore ML推論の高速化が実用水準に達したことで、今まさにローカルAI文字起こしが現実的な選択肢になっています。
こんな人に向いている
MLエンジニア・AIエンジニア
社内でLLMや音声AIの研究・開発を行うエンジニアにとって、会議内容のオフライン記録は貴重なデータ資産になります。システム音声とマイク音声が別ファイルで保存されるため、独自モデルのファインチューニング用データとしても活用できます。on_stop フックを使えば文字起こし後に自動でデータパイプラインへ流すことも可能です。
スタートアップCTO・エンジニアマネージャー
投資家や取引先との重要な会議はNDAの関係でクラウドサービスが使えない場面も多いです。quillならローカル完結で議事録が自動生成されるため、会議に集中しながら後で詳細を確認できます。
フリーランスエンジニア・コンサルタント
クライアントとの要件定義ミーティングや技術的な議論を正確に記録したい場合に最適です。transcript.md はすぐ読める形式で出力されるため、議事録メールへのコピー&ペーストも簡単です。
使う前に知っておきたいこと
以下の制限と注意点を確認してください。
- macOS 15以上が必須: Core AudioのProcess Tap(
AudioHardwareCreateProcessTap)はmacOS 14.2で追加されたAPIに依存しています。macOS 14以下では動作しません。 - 文字起こしは英語のみ: 現時点でデフォルトエンジンのParakeet TDT 0.6BはEnglish-onlyです。日本語の会議には未対応です。Whisperエンジンの実装はコミュニティから貢献が進んでおり(GitHubのIssue参照)、将来的に対応予定です。
- Apple Silicon推奨: Intel Macでも動作しますが、文字起こし速度が大幅に遅くなる場合があります。
- システム音声は全部録音される: 通知音・音楽・動画音声なども録音されます。会議中はメディア再生を避けることを推奨します。
- ライセンス: ライセンスファイルは未公開(README未記載)のため、商用利用前にリポジトリを確認してください。
まとめ:プライバシーを守りながら会議の文字起こしを自動化
quillは、クラウドに頼らずmacOS上でローカル完結の会議録音・文字起こしを実現するユニークなツールです。Apple SiliconとCore MLを活用した高速な文字起こしと、シンプルなメニューバー操作が魅力です。現時点では英語のみの対応ですが、Whisperエンジン対応が進めば日本語話者にとっても強力な選択肢になるでしょう。プライバシーを重視するエンジニアやビジネスパーソンに、ぜひ試してほしいオープンソースプロジェクトです。
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